「理学データベースの構築促進と体制の整備に向けて」

第1章 理学各分野におけるデータベースの歴史と現状

1-3 核物理学分野

(1) 核科学に関連するデータの現状と問題点
ここでは物理分野の中で,核科学に関連するデータの現状と問題点に触れる.
核科学分野におけるデータベースは,核構造関係のデータ,核反応関係のデータ,核融合科学に関連するデータ,生命科学に関するデータなどが存在する.核構造や核反応,原子分子などデータにおいては,世界的な規模でデータの収集が行われており,各国で分担をして作業がなされている.これらのデータの整備に関しては特にデータの評価が重要である.
利用する場合の評価が十分になされていないと利用する上で大きな支障をきたすことから,データベースの作成・整備は規模の大きな研究所で分担されている.それぞれのデータについては,各機関が分担し,そのデータの収集及び質の向上を図っているが,評価を含めた整備は各分野の専門的な知識を有するとともに,データベース構築上の専門知識も必要とされる.特に,分野の専門家,情報処理の専門家,利用者の緊密な協力が必要となる.データベースはこれを利用する者にとっては重要であっても,その整備に対する体制には問題が多い.特に,整備する体制,予算,整備に携わる研究者の評価,人材の育成,などの面で強化される必要がある.
業績評価という観点からは,データの収集,整備,保守などに関して評価が十分に行われていない.これは関連するプログラム開発に関してもいえる事である.データベース作成に関わる業績の評価が適正にされないと,若い研究者の育成という点からは決定的な問題となる.
データベースの整備に関して人員・予算ともに他のプロジェクトに比較し,比較的小さな規模で実行可能であるが,それに対する評価が十分に行われないために,予算や人員の規模の縮小が行われることがあると,利用する研究者にとって大きな損失となる.これらの点の理解を得るためには,各分野でデータベースを整備しているグループとの問題点の整理,対外的なアピールなど進めていくことが必要であろう.
小規模で行われているデータ整備に例を挙げると荷電粒子核反応に関係する核データNRDFはJCPRG (責任部局,北海道大学理学部)により,文部省事業費を運営資金として作成・管理・運営されている.しかしながら,体制としては専任がおらず,大学等のスタッフが兼任という形で運営し,アルバイトやポスドクによるデータ収集,システム開発を行なっており,運営基盤(特にマンパワー)が安定しているとは言えない.特に,現在は検索・管理システムを大幅に更新中(大型計算機からワークステーションなどへの移行)であり,専任のスタッフがいないことが大きなネックになっているといえる.

(2) 素粒子データグループの活動
素粒子データグループ (Particle Data Group) は,1958年に始まり,今では合衆国,ヨーロッパ,ロシアおよび日本の共同事業である.日本は,高エネルギー物理学研究所(現,高エネルギー加速器研究機構)を中心に KEK-PDG を構成し,1974年から参加している.現在の日本側の代表は,日笠健一氏(東 北大学理学部物理). 主たる成果物と活動は以下のとおり.
1) Review of Particle Properties (the Particle Data Book) 高エネルギー物理学の基本データを収集し,まとめ,評価したもので あり,権威のある総括として認められている.この分野の全論文の4% (2583論文) がこのデータ集を引用している(1980年代の総計).理論・ 実験を問わず,ほとんどすべての高エネルギー物理学者が請求している. オンライン(http://pdg.lbl.gov/, 日本のミラーサイト http://ccwww.kek.jp/pdg/ )でも見ることが出来る.冊子体は2年に1 回発行,配布数は10000以上.オンライン版は毎年更新.
2) Current Experiments in Elementary Particle Physics (LBL-91) 高エネルギー実験の採択されたプロポーザルの集成.LBL-SLAC-KEK- CERN-Serpukhov の共同事業.2〜3年に一度発行.配布数3500. (Q)SPIRES や WWW からもアクセスできる.
3) A Guide to Experimentsl Elementary Particle Physics Literature (LBL-90) 高エネルギー実験の論文を,対象とされた粒子反応から検索.ロシアを中心に作成.
4) 文献データベース SLAC(Stanford Linear Accelerator Center) にあるHEPデータベース(高エネルギーのプレプリントの集成)へのWWW インターフェースを提供.京都大学基礎物理学研究所が協力.
5) 教育教材 中学高校生などを対象に,高エネルギー物理学の理解増進のための活動を行なっている.WWW( http://ccwww.kek.jp/pdg/particleadventure/index.html) 上には,The Particle Adventure というバーチャル・ツアーが用意されている.さらに,素粒子の周期律表の壁掛けポスターを始め,種々の教材を提供 している. KEK-PDG は,上記の様々な活動に参加している.さらに経済的にも協力し, LBLのセンターの活動費の一部を,日米協力(高エネルギー物理学)の中で負担している.