「理学データベースの構築促進と体制の整備に向けて」

第2章 理学データベースの問題点とその解決策


 第1章から分かるように,理学は多様な学問領域をカバーしているので,データの意義や使われ方が各分野でかなり異なる.しかし,共通して言えるのは,データの重要性が飛躍的に増しているにもかかわらず一般にはその認識が浸透せず,データを扱う現場が大きな矛盾と困難を抱えていることである.この章では,この理学共通の問題点をまとめ,改善のための方策を提言する.

2-1  理学データの意義と種類

 理学各分野の学問は,データの取得と分析から導かれる論理体系であると言える.研究者は,個人または共同で行う実験,観測,調査によりデータを取得し,或いは,第三者によって得られたデータを収集・整理し,それに多面的な考察を加えて論理を組み上げていく.取得されるデータの質が出来上がる論理体系の質を左右するから,データを取得し研究に使える形に整えることは,学問発展の基礎として極めて重要である.
 理学で使われるデータは,(a) 文献データ,(b) ファクトデータ,(c)自然観測データ,(d)その他のデータ,に大別される.抄録や論文全文データを含む文献データは,理学全分野で,光速などの物理定数,化学構造,物質のスペクトル,生物種,ゲノムなどを含むファクトデータは,主に,物理学,化学,生物学分野で,時間・空間の関数になっている自然観測データは,宇宙・地球科学の分野で使われる.その他のデータには,動物・植物・鉱物標本や地質図など数値化しにくいデータがある.
 文献データベースの特徴は,含まれる情報が確定していることである. 論文タイトル,著者名,掲載雑誌,出版社,出版年,アブストラクト,論文全文など,1つの論文や書物に関する情報はすべて確定していて疑う余地はない.また,文献データベースの利用方法も理学分野に限らず一定している.これらのことを基礎にして,「文献情報データベース」というデータベースのジャンルが出来上がっている.
 これに対して,文献データ以外の他の理学データは,得られた値が確定しているとは限らない.すべての測定値は測定誤差の範囲内で正しいのであって,測定値と共に誤差範囲が与えられなければ精密な議論には使えない.この誤差範囲の決定は容易ではなく,測定器の構造や測定環境を考慮して経験的に決めざるを得ない.例えば,温度計記録の長期変化が自然の気温変化であると判定するには,温度計自身の感度の経年変化や人工熱源の影響などの測定環境の情報を慎重に検討する必要があるであろう.
 したがって,ファクトデータや自然観測データのデータベース構築には,データ取得者やそのデータを使う研究者によるデータの吟味・評価が必要になってくる.

国際学術会議(International Council of Science;ICSU)には,主としてファクトデータを扱うCommittee on Data for Science and Technology(CODATA)と地球物理学関係の自然観測データを扱うPanel on World Data Centers (WDC), Federation of Astronomical and Geophysical Data Analysis Services (FAGS)が置かれて,関係学協会と共にデータに関する様々な問題に対処している.WDCパネルは約50のWorld Data Centerを統括し,FAGSは太陽黒点数,地磁気指数算出等に責任を負っている.  ICSUに対応する日本学術会議には,情報学研究連絡委員会に3つの専門委員会(情報学基礎専門委員会,学術文献情報専門委員会,学術データ情報専門委員会)がある.学術データ情報専門委員会はCODATA対応国内委員会であり,主としてファクトデータを扱う.Panel on WDCsには,地球電磁気研究連絡委員会のデータ小委員会(名前は変わる場合がある)が対応してきた.また,16-17期地球物理学研究連絡委員会には,データ問題を検討する小委員会が作られ,17期には,本報告書に責を負う理学ネットワーク小委員会が第4部(理学)に作られた.

2-2 理学データの最近の特徴

(1) データの量と種類の増加:  前には,データの取得は,研究者個人の努力により行われるのが普通であり,その量は個人が扱える範囲に留まっていた.しかし,学問の発展はより多くのデータを要求するようになり,測定・観測技術の進歩と相まって生産されるデータの種類と量が飛躍的に増加している.

(2) インターネットでの流通と解析: かつては,データは,チャート上のアナログ記録や数値・記号表等の印刷物として公開され流通していた.計算機技術の発展により大量データのデジタル処理・蓄積が可能になり,さらにインターネットの普及によって世界各地のホームページ上の公開データを取得し,解析することが普通になった.

(3) 公開の促進: 今日では,室内実験,野外実験・調査,資料調査,研究観測,定常観測等,理学研究に関係する様々な現場から膨大なデータが取得・蓄積されている.これらの中には取得者の研究にだけ使われるものもあるが,多くのデータは,異なる観点からの解析により別の研究成果を生み出す可能性を常に持っており,その保存公開により,取得者の意図を越えて何重にも使われ得る.研究の進展によってそれまで気づかれなかった新しい視点が生まれ, それを考慮して過去のデータを再解析することにより新しい事実が発見される場合も少なくない.天文学,地球科学,生物学などのデータは,再現することのない自然の進化の記録でもあるから,データの消失は,その時代の記録の欠落に通じる.したがって,一般性のあるデータは,人類共通の財産としてデータベース化して公開することを原則とするべきである.このように,データが研究者個人ではなく社会全体の公共的所有物であるとの認識が次第に浸透してきており,データの公開による社会への貢献が研究プロジェクトの評価の基準に取り入れられつつある.

(4) リアルタイムデータの必要性: データ取得から解析や公開までの時間が短縮され,リアルタイムデータの公開も行われるようになった.リアルタイムデータは,地震発生時の新幹線停止や津浪警報発令など実生活でも重要になってきている.世界各点の観測データをリアルタイム画面で見ながらインターネット上で議論が始まる等,研究のスタイルが変わりつつある.

(5) 多様な利用: 最近では,一つのデータが,それが直接的に関係する分野だけではなく,異分野の研究にも使われるようになり,更には教育や一般社会でも利用されるようになってきている.例えば,気象データは気象学者の研究や気象庁の天気予報以外に,生物学・医学・農学・工学・地理学・文学・歴史学等の研究にも使われ,また,理科教育,気象会社の業務,河川・ダムの管理,鉄道・船舶の運行,弁当・衣料・暖冷房機器の生産調整などに利用されている.人間生活に密着した気象データは,最も分かりやすい例であるが,このことは,程度の差こそあれ他のデータにも当てはまり,思いがけない場面で使われているデータに驚くことがある.

(6) 評価・検定の必要性: 先述のように,理学の研究分野で使われるデータに共通して言えることは,データが確定的でないことである.取得時点で100%確実なデータは存在せず,データの測定計器の特性や取得条件を考慮してノイズ除去や検定・評価を行いその信頼度の幅を決める作業が常に必要になる.文献情報データと異なって,理学データの場合は,入力作業が済んでも信頼度に関する情報がなければデータベースとして使えない.この検定・評価作業は,データの取得・追加が続く限り継続して行われなければならない.時系列データの場合は取得条件や計器の感度が時間変化しうるから,データを蓄積し使い込んだ後に検定・評価のより良い基準が決まることもあり,新しい基準を使うことによって解析精度が改善される場合もある.検定・評価は,そのデータの取得に直接関与した専門研究者によって行われなければならない.

(7) 容易なアクセス: 上述のように,データは,直接の取得目的を越えて,異分野の研究,教育,行政,産業等に広く使われる可能性を持っているから,容易にアクセスできるユーザーフレンドリーなデータベースの構築が要求されている.

2-3 データベース構築の問題点と改善策

 現在では,莫大な量のデータが世界各地で生産・蓄積され,インターネットを通じて研究だけでなく教育・行政・商業・産業などに利用されている.10年くらい前から起こり始めたこの動きはなお加速されており,まさに我々は情報革命の最中にいると言える.情報の発信・利用の促進は,今や国家存立に関わる重要事になってきているが,その基礎をなすデータベースの役割に対する認識は,以下に述べる通り日本ではまだ不十分である.

(1) データベース構築への評価: 情報の源としてのデータベースの重要性は明らかであるが,そのことは日本では十分には理解されていない.日本では,伝統的にハードウエア偏重でソフトウエアや人の配置を軽視する傾向があったが,IT化の時代になってもこれは改善されていない.データの取得に関係している組織でも,データベース構築の意義と困難に対する上層部の理解が無く,必要な人員や予算が与えられていない.研究者にもデータベース構築を研究より価値が低いと見なす傾向がある.
 したがって,データベース構築が研究の推進上,データの創出に勝るとも劣らない重要性を持っているという認識を確立し,それに対して人員が配置され予算措置が取られなければならない.前述のようにデータベース作成にはデータ内容に関する専門的知識が要求されるため,研究者が深く関わることが必要である.そのような関与は研究活動の一環として評価されるべきである.

(2) 公開意識の向上: 公費を使って得られたデータが人類共通の財産として整理・保存・公開されるべきものであるとの認識が不十分である.この点を改め,データは,一定の研究期間の後,取得者・取得組織のプライオリティを守る方策を取りながら公開することを原則とするべきである.そのためには,研究計画の中にデータ処理・公開計画を明示する事を義務づける,そのための予算を必ずつける,データ処理・公開計画のない研究計画は認めないことにする,研究プロジェクト毎にデータの公開と利用の程度を調査し,それを次の研究計画の査定に反映させる等の措置を取ることが必要である.
 個々の研究者が持つデータが公開されにくい原因として,プライオリテイの保護とデータベース化の費用が挙げられる.この点を改善すれば現在非公開の多くのデータベースも公開されると思われる.

(3)  永続的データベース構築体制: データベース構築の問題点は立ち上げだけではなく,立ち上げたものを継続させることにもある.この「継続」は,単にそのデータベースがアップデートされるだけではなく,それが有効に利用されるような体制の構築と維持を含む.データベースの場合,明白に「継続は力」であり,ひとたび途切れたら,それまでの苦労は水泡に帰す.
現在構築中のデータベースのほとんどは,文部省を始めとする各省庁の科研費,或いはそれに相当する研究費に依存している.これは額の多寡を問わず,基本的には数年度継続すると打ち切られる性質のものであり ,構築担当者は研究費の継続のために腐心するという状況が続いている.重要性が認識されたデータベースは,数十年にわたる継続的蓄積を可能とする財政的保証が必要である.それには人員を含むことも当然である.科学技術振興事業団 JST はデータベース化支援事業を実施しているが,現時点では,この事業の対象は国公立試験研究機関等であり,大学は対象されていない.全省庁のデータベース構築を継続して支援する事業が必要である.
 日本には,米国のような大規模なデータセンターはないが,小さなデータセンター,あるいは,実質的にその役割を果たしている組織はかなり存在する.しかし,現今の「研究費の重点的配分」の方針の下で,これらの小組織への経常的運営費が減らされつつあり,継続を必要とするデータベースの構築・維持に支障が出ている.

(4) 研究者と情報専門家の協力体制: 前述のように,理学データのデータベース化はデータベース業者への外注で済む問題ではなく,データ取得に携わった研究者の密接な関与が必要になる.一方,現在のデータ処理は高度な情報処理技術を必要とする.しかも,これらの技術は,速い速度で進歩・発展するので,研究者が研究の合間にこれらの技術を習得しデータ処理に役立てることは事実上不可能になっている.このような状況下で,理学データベースの構築には,専門研究者と情報専門家の協力によってデータベース構築を進める体制が出来ねばならない.  日本のデータ体制の最大の欠点は,殆どすべてのデータ関連組織で情報技術専門家のポストが無いことである.この点,大規模データ組織内にデータベースやネットワークの専門家が存在し,研究の現場にもPh.Dを持つような高級プログラマーを雇用出来る米国の体制とは雲泥の差がある.
 最近,技術的な仕事を外注や派遣業に頼る傾向が目立ってきている.これは,厳しい人員削減の流れの中である程度やむを得ない措置であるが,技術面での必要性を理解し外部委託を掌握・制御できる技術専門家が内部にいないと,お金の割に効果が上がらぬことになるであろう.直接の人件費に加えて会社の利益を負担する外注や委託が本当に経済的なのか再考する必要がある.見かけの効率だけを考えた過度の外部依存が大きな弊害を生むことは,最近,公共的組織で頻発する事故が証明している.
大学や研究所以外の現業的データ組織には,専門研究者がいないためにデータの評価や内容に立ち入った処理に困難をきたすところもある.このような組織では,研究者のポストを確保するか,外部の研究者との協力体制を確立することが必要である.

(5) 規模に応じたデータベース構築体制: 理学データベースには,大規模で利用者が広範囲にわたるものから,比較的小規模のものまで様々あり,それぞれに異なった対応が必要とされる.
 大規模なデータベースでは,通常半永久的な運用が前提とされ,データ収集・配布に関する国際的協力義務を伴っている場合が多い.また,その公的な性格から,非営利である必要性がある.膨大な量のデータを管理し,ネットワークを通じて配布するための,強力な計算機資源(高速計算機,高速ネットワーク,大量のディスク・スペース)も必須である.上述のように,理学データベースの質を維持するためには理学の各分野の専門家がデータの内容を監視する必要があり,また情報科学の専門家によるコンピュータとネットワークによるデータベース管理も必要である.日々のデータ入力作業や,データ提供者とのやりとりのための事務等,専門的知識を要しないコンピュータ作業・事務作業用の要員も必要とされる.従って国家的大型予算が考慮されてしかるべきものといえる.
 小規模データベースは,主に,各研究者が自らの問題意識に基づいて個別に作成するものであるが,他の研究者にも有効に利用されることが望ましく,そのためには,それらデータベースを統合した情報提供サービスが必要になる.すなわち,データベースの所在情報データベース,いわゆるポータルの作成を推進する必要がある.総合科学として,理学のみならず工学・医学・歴史学などを含めた広い分野のデータを参照することが必要な分野(地質学等)では,必要とする全てのデータを収納する巨大かつ複雑なデータベースを構築するよりは,データの構造の異なった多分野のデータベースを互いにリンクさせて使用することが現実的であり,そのような分野にとってもデータベースのネットワーク化は基本的要請である.

(6) 国家プロジェクトとしての位置付け: 国家間の利害にも影響しつつあるデータ問題は,これを,宇宙・海洋開発,環境,ゲノム,癌,IT等と同じレベルの国家プロジェクトと位置づけ,対応する国家委員会の指導の下にそれを推進することが必要である.特に,データベース構築が,殆どすべての省庁が関与する極めて省際的なプロジェクトでありながら,統一的な理念なしに進められていることを考えると,国としての明確な方針のもとに進めることが大切になる.このような観点から,総合科学技術会議の主導の下に「データベース委員会(仮称)」を作り,国としてのデータ問題の基本方針を策定し,実施機関として,「国立データベース機構(仮称)」を設立してデータ体制の改善とデータベース構築を推進することが望ましい.情報立国は資源小国日本が目指すべき極めて適切な道なのである.

2-4 データセンターの整備

(1) データセンターの必要性
現今の研究は,有限の期間にプロジェクト的に行われることが多いから,プロジェクトの終了後,構築データベースの維持が困難になりがちである.また,研究者の退職後,生涯をかけて作られた有用なデータベースが管理者未定のまま宙に浮き,内容の詳細が分からなくなり,ついには,破棄されることも起こっている.このような事態に対処するために,研究現場で構築され,ある程度まで完成されたデータベースの管理と公開を永続的に行うデータセンターが必要になってくる.
 データセンターは,単なるデータの倉庫ではなく,データの評価・検定・加工など内容に立ち入った作業を行い,データについての照会に応じ,技術やマンパワーが不足する研究現場との協力してデータベース構築を促進し,外国のデータセンターとの連絡・調整にあたり,データ収集・公開についてのプロジェクトを指導するなど研究に密接に結びついたデータ専門組織としての役割を期待されるようになってきた.したがって,そこには,データを用いた研究を行い,データの性質に精通した専門研究者の存在が必要になる.
 米国には,数十人の人員を擁する大データーセンターが幾つも存在する.宇宙・地球科学の分野では,米国航空宇宙局(NASA)の国立宇宙科学データセンター(NSSDC:National Space Science Data Center)や,米国海洋大気局(NOAA)の国立地球物理学データセンター(NGDC:National Geophysical Data Center)を例としてあげる事ができる. NSSDCの現在の人員は,約80名,予算は年間約6億円である.
 日本における大規模センターとしては,国立遺伝学研究所・生命情報研究センターのDDBJ(DNA Data Bank of Japan:日本DNAデータバンク)が存在するし,大阪大学タンパク質研究所のタンパク質立体構造データバンクも最近国際的活動を開始したが,いずれも国際協力体制の維持等にはまだ予算基盤が軟弱であり,更なる整備と充実を必要としている.
 上記の生物科学の分野を除けば,日本には,米国のような大規模データセンターはなく,作ることも難しいと考えられている.しかし,数人のスタッフがデータ処理と公開に関与する小さな組織は,かなりの数が存在するから,まず,これら既存データ組織が直面している問題を解決し,整備・充実を図る必要がある.

(2) 連携データセンターの設立
 上述のように,理学データベースの構築には専門研究者の直接的関与が必要である.日本の現状では,あらゆる分野の専門家を一カ所に集めた大データセンターを作ることは出来ないから,データに関与する研究者が所属する組織内に専門化した小データセンターを置き,これらを分野別にネットワーク化して運営することによって,より大規模なデータセンターに近い機能を発揮させるのが現実的であろう.
 地球物理学の分野では,第16期学術会議地球物理学研究連絡委員会でこのデータセンターネットワーク構想が検討され,報告書に取り上げられている.それによれば,地球物理学を適当な範囲の領域(この場合は,固体地球物理学,気水圏地球物理学,太陽地球系物理学の3領域)に分け,領域内データ組織を結合し,共通の運営委員会と技術委員会を設けて運営と技術的問題の解決にあたる.各領域毎に指定されたコアセンターが世話機関として事務局を担当する.このネットワーク化されたデータセンターの集合を,ここでは仮に「連携データセンター」と呼ぶことにする.共通運営のための費用(会合費,データベース構築費,国内旅費,外国旅費等)は,コアセンターがその所属機関を通して取得する.連携データセンターの構成要素である各データ組織はそれぞれの所属機関によって運営されるが,データ活動については,可能な限り連携データセンター共通の理念と方式に従う事が望ましい.各データ組織が最低一人の情報専門家のポストを持ち,組織間での人事交流を行えば,情報専門家の確保と処遇に有効であろう. 組織ごとに情報専門家が持てない場合は,連携データセンタとして共通のポストを持つ工夫が必要になる.外注や要員派遣の契約を連携センター単位で一括して行うことも有効であろう.連携データセンターは省庁横断的組織であり,これにより,縦割り行政の弊害を除き横の連絡を密にして,データベースの構築と利用の両面において効率化が図れるであろう.
 総合科学技術会議に[データベース委員会]が出来れば,その下に各分野の連携データセンターを統括する「連携データセンター運営委員会(仮称)」を置くのがよいであろう.このような上部組織ができるまでは,必要度の高い分野から連携データセンターを立ち上げ,「連携データセンター連絡会(仮称)」を設けて,連携センター間の連絡・調整を図るのが良いであろう.
理学の分野は広いから,必ずしもデータ組織のネットワーク的運営を必要としない分野もあるであろう.必要だとしても,上と同様の運営方式が良いとは限らない.連携の中身については,それぞれの分野の事情に応じた工夫が必要であろう.

(3) 新データセンターの設置
既存データ組織の充実とそのネットワーク化とが当面緊急の課題であるが,現状で必要性が認識されているにもかかわらず,データセンターとして組織化されていない分野もあるであろう.そのような分野では,関連研連委などの議論を詰めたのち,上記提案のデータベース委員会で,国の基本方針と照らし合わせて検討し,必要ならば設置に向けて動くべきであろう.学問の発展や,国際情勢の変化に応じて,今後必要になるデータセンターについても,同様の手続きを踏むべきである.

2-5 情報科学技術分野の専門的人材の育成

情報は一種の財産である.情報という形の財産を持たない国の将来は危うい.局地的な戦争の種は絶えないとはいえ,世界の基本的な流れは戦争のない,平和な社会を前提とした未来を指向している.そのような平和な世界での武器の役割を果たすのは,情報と人材(教育)である.我が国では,残念ながら ,情報の教育の面で十分な手当がなされていないと言わざるをえない.情報教育に関しても国家的戦略が必要となる.
 情報科学は,もともと数学や電子工学を基礎として発展してきた.そこでは,より大量のデータをより早く効率よく扱うコンピュータの開発研究が主要課題であった.最近では情報科学には情報革命の社会的基盤整備の役割が要請されている.情報革命は生産や商取引の形を変えつつあるが,学術情報の流通においても変化が著しい. この数年間,電子化された情報が爆発的に増加しており,コンピュータハードウェア・,インターネット・移動通信技術の発展,さらに二次記憶,三次記憶などに対する記憶容量の増大とともに,学術情報流通を含む情報科学分野にも大きな影響を与えつつある.したがって,データベース構築およびそれを有効利用するための計算機とネットワーク技術の専門的人材の育成は情報科学の進展にとって重要な課題と言える.
データベース分野は,知識交流や将来のネットワーク社会における基盤技術として重要である.基本システムであるデータベースシステム自体は特定のビジネスに向いた定形データを対象にすることによって,データの持つ意味的な一貫性制約を集中的に管理できる等の成功をおさめてきた.また,情報検索システムも幅広く利用され,最近ではそれが電子図書館といった方向に進みつつある.また,銀行のオンラインやクレジットカード等,信頼性が高い応用に対してトランザクション処理という概念が出され,これについても成功している.しかし,データを扱う分野が増えることによって,これらのシステムでは扱えないような情報が大幅に増えているのも事実である.
 ネットワークでは,例えば,ハードウェア,ソフトウェアの障害や外部からの侵入などを原因としてネットワークトラブルが起こる.このため,ソフトウェアだけでなく幅の広い専門知識が要求されるが,企業でも大学でもネットワークの専門家が不足していて対応が出来ない.大学における一つの問題は,研究者がネットワークの係を兼ねているため,事故対策やサービスに時間をとられると論文が書けなくなり昇進から取り残される,という事態が生じていることである.従って,ネットワーク関係の人材の育成だけでなくいかに処遇するかが重要な問題である.
日本で現在問題となっているのは,情報科学分野が大きく広がりつつあるにもかかわらず大学院の学生数もかなり少ないことである.上述のようにデータの取得,データベースの構築と管理,データベースの利用,ネットワークの構築と管理など様々な場面で情報科学の専門家が必要である.また,理学のそれぞれの分野の研究者もデータベース構築やその利用に関して情報科学の知識を身につけていることが望ましい.したがって,情報科学の教育は他分野への応用を,各専門研究分野の教育は情報科学の適用を視野に入れることが望ましい.

2-6 データ流通の高度化

(1) 検索・利用システムの高度化
学術情報のデータベース化と検索利用は,文献・資料等の二次情報から始められており,現状では,当面の課題は概ね解消しているといえる.また学術論文等の一次資料の大半を占める全文テキスト(Full Text)の蓄積並びに検索利用については実用システムが整備され,現在の関心は,全文テキストの作成支援(学術論文編集出版)と蓄積利用の一体化に向けられているといえよう.
一方,テキスト情報を離れて数値・構造・画像・動画・音声・音楽等の属性を有する学術情報については,情報の構造化が試行されているものの,学術分野を横断した取組は今後の課題となっている.この解消に向けた方策は多様であり,この「まとめ」でも既に触れられてきたが,要約するならば,

・ 蓄積並びに検索・利用を目的とするセンターを必要とすること
・ 蓄積並びに検索・利用には高度な専門性の裏付けが求められることから,センターには学術分野の研究者を配置することが必要なこと
・ この様な研究者により学術分野相互の調整が図られ,分野を横断する体制の整備が期待できることから,センターには計画調整機能が必要なこと
・ この様な研究者の業績を正当に評価する体制が必要なこと

等となろう.即ち,情報整備のために従来以上に高度な情報処理技術を必要とするために個別分散的な体制では効率化が困難である一方,学術分野ごとの研究者が直接関与することを必要としており,これに即応する体制の整備が早急に求められているといえる.以上の情勢から,既存の体制を勘案しつつ,理学情報の全国的なセンターの整備を進行し,各分野で保有するデータの高度検索・利用が図られる構想を具体化する必要がある.

(2) リアルタイムデータのためのネットワーク整備
学術研究を支援するネットワーク整備が国立情報学研究所(同研究所の学術情報ネットワーク:SINET)及び科学技術振興事業団(同事業団の省際ネットワーク:IMNET)で行われている.SINETによれば,通信需要の伸びを吸収するべく年間2倍程度の通信速度の向上が図られており,欧米の研究ネットワークに匹敵する規模と速度と評価できる.現在は,欧米の研究ネットワークと同様に,ネットワーク経費の効率的活用への制約から,通信容量の利用率が高い(80%以上)運用が行われており,通信需要の時間変動により利用できる通信の品質が大きく変化する状況にある. 一方,波長多重伝送(WDM)製品の価格低下や一部海外の通信事業者による超高速伝送サービスの試行により,超高速通信への期待は高まりつつある.同時に,従来の通信単価を大幅に下回るコストの導入が予測されているために,過去の延長による運用経費を前提として,超高速ネットワークのための総経費枠を想定することが必要となろう.この過程で,従来より利用率を下げた超高速ネットワークが運用できることへの期待がある. WDMによる超高速ネットワークの運用を目的とする開発が1999年から学術情報センター(現・国立情報学研究所)を始めとして開始されているが,概ね,2003年以降の全国運用を目指している状況にある.このような超高速ネットワークの整備を加速し,学術分野が必要とする回線容量を個別に確保できるよう整備することは,従来の学術情報の流通から,学術研究の高度化に向けた転換となる.即ち,情報へのアクセスと利用を確保する時代から,世界規模で分散し行われている研究活動の相互交流を柔軟に実現することへの転換を超高速ネットワークが可能とする.